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企業法務を中心にいろいろと


by in_progress
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USの銀行(グループ)の業務範囲

USの銀行(グループ)の業務範囲について整理してみようと思います。
USの銀行には、National BankとState Bankがありますが、主だった銀行はNational Bankですので、National bankを前提に話を進めます。

Ⅰ National Bank Act of 1864
銀行本体の業務範囲を規定しているのは、National Bank Act Section 24 Paragraph 7という規定で、銀行は、銀行業務(business of bankig)を営む上で必要な付随的な権限(incidental powers)を行使することができるとしています。
何が付随的(incidental)といえるかについては、法令上必ずしも明確ではなく、旅行代理店業務(Arnold Tours, Inc. v. Camp, 付随業務性の判断について、銀行の業務にとって利便性又は有用性(convenient or useful)があれば銀行の業務として認められるという基準で判断。銀行が全面的な旅行代理店業務を行うことはできないと結論)、自動車リース業務(M&M Leasing Corp. v. Seattle First National Bank)、データプロセシング業務(National Retailers Corp. of Arizona v. Valley National Bank)などについては判例が存在します。
証券の引受業務については、1933年のGlass-Steagall Actにより、いわゆる銀証分離の政策がとられていたため、Section 27 Paragraph 7にも、証券の引受を禁止する規定が存在します(後述のとおり、GLBAにより銀証分離は過去のものになっていますが、現在でもこの規定自体は残っており、基本的には銀行本体による証券の引受業務は禁止されています(例外あり)。)。
Glass-Steagall ActのSection 20は、銀行と証券会社の系列化を禁止していましたが、同条の文言は、"firms engaged principally in the issue, flotation, underwriting, public sale, or distribution ... of stocks, bonds, debentures, notes or other securities."とされていたことから、限定的な(principallyでない)範囲で証券業務を行う会社との系列化は制限されないという解釈が取られており、この解釈に基づき証券業務を行う子会社は、Section 20 Subsidiariesと呼ばれていました。なお、このSection 20という規定は、後述のGLBAにより廃止されています。

Ⅱ Bank Holding Company Act of 1956
1956年に成立したBank Holding Company Actは、銀行と事業会社が同一のグループ内に帰属することを禁止しています。BHCAのもとでは、銀行又は銀行持株会社(BHC)に対して支配(議決権の25%以上又は取締役の過半数の選任をコントロール等)を有する会社をBHCと定義しています。
BHCAのもとで、BHCは、自ら銀行業務を営むことができる他、銀行及び他のBHCを保有することができ、また、銀行業務と密接に関連する(closely related to banking)業務を行う会社の株式を保有できるとされています。(BHCA Section4(a)(2)、(c)(8))。
この「銀行業務と密接に関連する業務」については、Regulation Yの§225.28という規定がリストを定めており、以下で述べるFHCのステータスを取得しないBHCのグループ企業は、この範囲内であることが原則となります。
もっとも、BHCA Section4(c)は、他にもBHCが株式を保有できる限定的な場合を定めています。この中で重要なものは、議決権の5%を超えない限りいかなる会社の株式でも保有できるとする(6)かと思います。(聞いたところによると、(通常の意味での)プライベートエクイティファンドにBHCが投資する場合、BHCは投資ビークルであるリミテッドパートナーシップに対して4.9%までしか議決権を持たないという規定が入ることがあるそうですが、それはこの4(c)(6)に基づく投資であることが理由だそうです)

Ⅲ Gramm-Leach-Bliley Act of 1999
銀行(グループ)の業務範囲を考える上で、次に重要なのは、1999年に制定されたGramm-Leach-Bliley Actです。この法律は、BHCの一形態として、新たにFinancial Holding Company(FHC)というコンセプトを導入し、FHCのもとで、銀行と証券、保険が同一のグループ内に帰属することを認めたという点で画期的なものです。
資本の健全性(well-capitalized)、経営の健全性(well-managed)等の一定の要件を満たすBHCは、必要な手続きを行うことによりFHCになることができます。FHCになることができるのは、銀行に限らず、法律上は、銀行以外の会社(例えば保険会社)が銀行を子会社として持つことによりBHCのステータスを取得し、FHCになることも可能です(実際にはほとんど例がないとのことですが)。
FHCは、(1)性質上金融(financial in nature)と認められる業務、(2)かかる金融業務に付随するもの(incidental to such financial activity)、(3)金融業務を補完するもの(complementary to a financial activity)であって、預金機関(銀行)と金融システム一般の健全性を害さないもの、を業務として自ら行うことができ、またこれらの業務を営む会社を保有することができます(BHCA Section4(k))。
「性質上金融と認められる業務」については、BHCA Section 4(k)(4)が具体的な業務を列挙しており、この中に証券業務や保険業務が含まれる結果、上述のように銀行、証券、保険が同一グループに帰属することができることになります。
この中で、証券業務、保険業務のほかに重要なものとしては、(k)(4)(H)のいわゆるMerchant banking業務があります。この規定は、当該会社の日常的業務に関与しない限り、無制限に他の会社の株式を保有することができるとしています。ただし、この規定に基づきMerchant Bankingとして株式を保有する場合には、銀行本体ではなく、グループ内の証券会社を通じて株式を保有する必要がある他、保有期間が10年(規則で定義される"private equity fund"を通じて保有する場合は15年)と制限されます(Regulation Y 225.172、225.173)。

(参考)
J. R. Macey, G.P. Miller and R.S. Carnell, Banking Law and Regulation (3rd ed. 2001)

※いつものことながら、細かいところは不正確である可能性があります。
by in_progress | 2007-05-03 13:40 | US Banking